国際開発農学概論

暇なので、学生さんが書いた国際開発概論のそれぞれのレポートに、コメントを書いてみようと思いました。課題は、グループで何かテーマを取り上げて、既往の文献等を参考に、データを集めて、分液して、その結果を論文風にレポートにまとめるというものです。読ませてもらった、レポートはどれも力作で、それなりの努力の跡が読み取れるのですが、せっかく、面白いテーマを見つけているのに、それを上手に分析するテクニックがないため、見つけた面白いテーマを追求しきれず。全体としてぼんやりした印象を与えるものになってしまっています。テーマを見つけるセンスは悪くないのです。これは大事なことで、研究を続けることができるのは、研究テーマが面白いと感じているからです。面白くなければ、研究なんてやろうとも思わないし、それを強制されることは苦痛です。しかし実際に作業に入ってみると、必要なデータを集めたり、それを分析する技術のレパートリーがないと、思った方向で作業を進められず、妥協して、知っている分析方法だけできるような、つまらないテーマに方向転換してまいがちです。せっかく面白いテーマを見つけるという資質があるのに、そんなことで、卒論研究などがつまらなくなって、自分の資質を開花させられないのは残念なことです。また、次年度の学生さんが、自分たちのグループワークの参考にしようとして、前年度のレポートを読むときに、知識不足で、レポートの面白さを発見できないということもあるでしょう。そこで、それぞれのレポートについて、どこが面白いのか、どうすればもっと面白くなるのか、講評を書いてみました。

なお、お断りしておきますが、国際開発農学概論のレポートの採点基準に、統計分析手法の妥当性は評価項目になっていません。学部の3年生では、統計分析手法まだ十分に勉強していない人が多いから、それを、評価項目にすると、経験のある人とない人の間で、不公平が生まれるからというのが、その理由です。もう一つの理由は、評価基準にすると、あまり問題の起こりそうもない分析方法で出来るテーマばかりになって、分析すること自体の面白さが失われてしまうからです。どう分析したらよいかよくわからないことについて、分析法を工夫して、やってみるというのが、この授業の面白いところです。

2023年度

  M1 レポート

漫才のコンテストM1は、採点することによって、漫才の技術を向上させているか

  M1 コメント

 

  ケガと休養

東大アメフット部の練習時のケガは、睡眠時間を改善することによって減らせるか

ケガと休養 コメント

 

コーヒー レポート

鳥取市の人はコーヒーを飲むことによって、収入が増えたか(調査対象が面白い調査)

コーヒー コメント

 

ラーメン レポート

大学の周辺にはラーメン屋が大きのか?という話です。失敗に終わっていますが、気にしないで、次はどうするか、考えましょう。

ラーメン コメント

 

2023年度、全体的印象

2023年度全体としては、難しいこと、面白いことにチャレンジしたグループが多かったという印象です。かなり成功したグループとうまくいかなかったグループがありますが、データ収集や分析技術の巧拙を問わないというのが、この課題に対する評価のルールです。成功・失敗など、そんなことは気にせずにチャレンジすることが大切です。さらに、後から、このようにしていたらもっと結果が面白かっただろうと振り返ってみることは大切で、そういうことが、データ分析に対する勉強のきっかけになったりします(そんなことがなければ、統計解析など無味乾燥な勉強はしたくない。)。レポートを読むときにも、こうしていたらもっとうまくいっていただろうという、自分なりの提案を意識して読むと面白くなります。

分析の傾向としては、重回帰を使おうとしている例が多いのですが、多分、講義で相関関係と因果関係は異なるから、相関分析をしたら、その因果関係の説明を考えることが必要だと習ったからだと思います。もっとも、単純な因果関係の証明は、あることが起こった前後の変化を調べることです。分析法で言えば、t検定とかF検定など、差の検定ですね。この場合、対照(コントロール)を作っておく(あることが起こらなかった時にはどうなっていたのか)ことが、必要なのですから、調査でそれが可能になる場合は少ないかもしれません。どうしても、実験的な手法になってしまうかもしれません。その意味で、コーヒーの話はユニークです。

M1の例は、非常に特殊で、自分たちで分析のためのモデルを作らなければならないという、高い壁が最初にありました。その壁は、良くよじ登ったと思います。最後に力尽きた感があってもやむを得ないでしょう。

アメフットの例は、実際にありそうな分析で、リアリティーがありました。自分たちの周辺で、必要性の高い課題を見つけて、分析してみるというのは面白そうだし、実力が付くと思います。因果関係の分析ならば、ある条件が与えられる前後の比較をすればよいと、前段で書きましたが、では相関分析の目的は何かということになります。私のコメントで、データがないのに無理やり、相関分析の式を変えて、相関式を使って何が出来るかを示しました。睡眠時間が短くなったら、練習をどのようにすべきかという話です。この例が、相関式の使い方の典型的な例です。相関式をつくることの最大の目的は、シミュレーションです。相関式を作ったら、それを使って、何かシミュレーションをしてみると良いでしょう。

チャレンジするという意味で、面白かったのは、コーヒーの例です。馬鹿馬鹿しいと言えば馬鹿馬鹿しいのですが、それを一生懸命やると面白くなります。既往の文献をもっと読み込んで、コーヒーと収入の因果関係についての、仮説を拾い上げて、その仮説をいちいち丁寧に、検証してみたら、されに面白かっただろうと思います。

大学の周辺のラーメン屋の話ですが、これがうまくいかなかったのは、大学の周辺の空間的定義の問題だと思います。実態を調査(大学からの距離とラーメン屋の数の関係、大学生が昼飯を食べにどのくらいの距離移動するかなど)したうえで、空間の大きさを決めて、データを収集していたら、多分、違った結果になったと思います。悪くない経験です。